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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)898号 判決

控訴人 甲野花子

被控訴人 乙山春夫

右訴訟代理人弁護士 山口達視

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人に対し、原判決添付の物件目録(二)記載のプレハブ造仮設小屋を収去し、同目録(一)記載の土地を明渡せ。

控訴人は、被控訴人に対し、五〇万円及び昭和五四年二月一日から右土地明渡し済みに至るまで一か月当たり二万九、七二五円の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを四分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

この判決は、被控訴人勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求める。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  被控訴人の請求の原因

1  (被控訴人による本件土地の所有権取得)

原判決添付の物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)は、もと訴外丙川一夫(以下「訴外一夫」という。)が所有していたものである。

訴外丁原マツ(以下「訴外マツ」という。)は、昭和二八年四月五日、訴外一夫から本件土地を代金一一万二、三七五円で買受けて、昭和三三年二月一三日、右売買を原因とする所有権移転登記を受けた。

そして、被控訴人は、昭和三八年六月二三日、訴外マツから本件土地を代金一七九万円で買受けて、同年七月二日、右売買を原因とする所有権移転登記を受けた。

なお、控訴人は、当初本件土地が被控訴人の所有に属することを認めると陳述しながら、後にこれを撤回して、本件土地が被控訴人の所有に属することを否認すると主張するが、控訴人の右自白の撤回には異議がある。

2  (控訴人による本件土地の占有等)

控訴人は、本件土地についてこれを占有する何らの権限を有しないのにかゝわらず、昭和五四年一月、本件土地上に原判決添付の物件目録(二)記載のプレハブ造仮設小屋(以下「本件工作物」という。)を建築して所有し、爾来本件土地を駐車場として使用して、これを不法占有しており、被控訴人は、これによって、昭和五四年二月一日以降一か月五万円の割合による本件土地の使用料相当額の損害を被っている。

そこで、被控訴人は、控訴人に対して本件土地の明渡方を求めたが、控訴人は任意にこれに応じないので、弁護士山口達視に委任して、昭和五四年三月一七日控訴人を債務者として東京地方裁判所八王子支部に本件土地の占有移転禁止の仮処分申請をし、また、同年九月二七日本訴を提起したが、同年二月二五日、右両事件の処理のため右弁護士に対して着手金として五〇万円を支払って、同額の損害を受けたほか、成功報酬として一〇〇万円を支払うことを約した。

3  (結論)

よって、被控訴人は、控訴人に対し、本件工作物の収去、本件土地の明渡し並びに不法行為による損害賠償として昭和五四年二月一日から本件土地明渡し済みに至るまでの間の一か月五万円の割合による本件土地の使用料相当額の損害金及び弁護士費用一五〇万円の支払いを求める。

二  請求原因事実に対する控訴人の認否

1  請求原因1の事実中、本件土地がもと訴外一夫が所有していたものであること及び本件土地について被控訴人主張のような各所有権移転登記がされていることは認めるが、その余の事実は否認する。

なお、控訴人は、当初本件土地が被控訴人の所有に属することを認める旨の陳述をしたが、右は、本件土地の登記簿上の所有名義人が被控訴人であることを認めるという趣旨のものに過ぎない。

仮に、控訴人の右陳述が本件土地が被控訴人の所有に属することを認めるという自白に当たるとしても、それは、真実に反する陳述で、錯誤に基づいてしたものであるから、右自白を撤回し、右の事実を否認する。

2  同2の事実中、控訴人が昭和五四年一月に本件土地上に本件工作物を建築して所有し、爾来本件土地を駐車場として使用してこれを占有していること及び被控訴人がその主張のとおり弁護士山口達視に委任して本件土地の占有移転禁止の仮処分申請をし、また、本訴を提起したことの各事実は認めるが、その余の事実は知らない。

三  控訴人の抗弁

1  (訴外一夫・同マツ間の売買契約の通謀虚偽表示による無効)

仮に訴外一夫と訴外マツとの間及び訴外マツと被控訴人との間において被控訴人主張の本件土地の各売買契約がなされたとしても、訴外一夫と訴外マツとの間の右売買契約は、次のとおり、訴外一夫と訴外マツとが真実その意思がないのに通謀してそれがあるかのように装ったものであり、かつ、被控訴人は本件土地を訴外マツから買受けるについて右事実を知っていたものである。

すなわち、本件土地の所有者であった訴外一夫は、その先妻丙川タケとの間の子訴外丙川一郎との折り合いが悪かったところから、同人が訴外一夫の財産を勝手に処分してしまうことを恐れて、後妻丙川ウメの妹である訴外マツと通謀した上、本件土地を訴外マツが訴外一夫から買受けた旨の記載のある売買契約書を作成するなどして、売買契約を仮装し、被控訴人主張のとおりの所有権移転登記をしたものである。そして、訴外一夫の妹訴外甲野ハナの子である控訴人は、昭和三八年四月一〇日、訴外マツが右のような事情で本件土地の登記簿上の所有名義人となっていることを奇貨として本件土地を他に売却してしまうことを懸念して、司法書士である被控訴人方に赴き、右のような事情を告げて、訴外マツ又はその代理人が本件土地を他に売却してその所有権移転登記申請等を被控訴人に委任するために訪れるなどしたときには、直ちに控訴人に連絡して欲しい旨を依頼していたものである。ところが、被控訴人は、右依頼の趣旨に反して、かえって自らが訴外マツから本件土地を買受ける契約を締結してしまったものである。

2  (訴外マツ・被控訴人間の売買契約の通謀虚偽表示による無効)

そして、被控訴人が訴外マツとの間において本件土地の売買契約を締結したのも、右のような事情の下においてであり、訴外マツが本件土地の所有者ではないことを知ってのことであるから、被控訴人と訴外マツとの間の右売買契約も、同人らが真実その意思がないのに通謀してそれがあるかのように装ったものであって、無効である。

3  (控訴人による本件土地の所有権取得)

ところで、被控訴人は、昭和三八年二月頃、訴外一夫との間において、本件土地を代金一八〇万円で買受ける契約をしたものである。そして、控訴人は、前記のとおり、被控訴人に対して、本件土地の登記簿上の所有名義人が訴外マツとされるに至った事情を告げて、訴外マツ又はその代理人が本件土地を他に売却してその所有権移転登記申請等を被控訴人に委任するために訪れるなどしたときには直ちに控訴人に連絡して欲しい旨を依頼していたものである。

したがって、仮に被控訴人が本件土地を有効に買受けたとしても、右のような事情の下においては、控訴人は、本件土地の所有権取得をその登記なくして被控訴人に対抗し得るものである。

四  抗弁事実に対する被控訴人の認否

1  抗弁1の事実中、控訴人が昭和三八年春頃被控訴人方を訪れたことがあることは認めるが、被控訴人に対して控訴人がその主張のような依頼をしたこと、訴外一夫と訴外マツとの間の本件土地の売買契約が同人らが通謀してした仮装のものであること、被控訴人がそれを知りながら訴外マツから本件土地を買受けたものであることは否認し、その余の事実は知らない。

2  同2の事実は、否認する。

3  同3の事実中、控訴人が昭和三八年春頃被控訴人方を訪れたことがあることは認めるが、被控訴人に対して控訴人がその主張のような依頼をしたことは否認し、その余の事実は知らない。

第三証拠関係《省略》

理由

第一被控訴人による本件土地の所有権取得について

一  本件記録及びこれによって窺われる本件訴訟の経緯に徴すると、被控訴人は、本訴請求の請求原因として、当初は本件土地の所有権取得原因事実を具体的に主張することなく、単に本件土地が被控訴人の所有に属するとのみ主張していたものであるところ、控訴人は、原審第二回口頭弁論期日において、被控訴人の右主張を認める旨の陳述をしたこと、ところが、原審第六回口頭弁論期日において、控訴人(被告)の訴訟代理人は、控訴人の右陳述を撤回し、本件土地のもと所有者であった訴外一夫と同マツとの間及び右マツと被控訴人との間において本件土地の売買契約が締結されたことはなく、また、仮にそのような売買契約が締結されたとしても、それは各当事者の通謀による虚偽表示であって無効であり、かえって控訴人こそが訴外一夫から本件土地を買受けたものであるとして、被控訴人による本件土地の所有を争うに至ったことが認められる。

そして、被控訴人は、控訴人の右陳述の撤回に異議を述べるので、その可否について判断すると、訴訟上の請求の成否の先決問題となる権利又は法律関係自体について相手方がそれを認める旨の陳述をしたときは、それについて主張・立証責任を負う者は、当該権利又は法律関係の発生を基礎づける要件事実を主張・立証する負担を免れ、裁判所も、当該権利又は法律関係の存在することを前提として、当該請求の成否を判断すべきことは、もとより言うまでもない。しかしながら、この場合においては、当該権利又は法律関係の発生を基礎づける要件事実を自白したときに、その主張・立証責任を負う当事者の同意があるか、又はそれが事実に反しかつ錯誤に基づくものであることを証明したときでなければ、それを撤回することが許されないのとは異なり、当該権利又は法律関係を認める旨の陳述をした者は、それが法律的概念を用いてなされた具体的事実の自白に当たると解されるのでない限り、先にした陳述を撤回して、当該権利又は法律関係の発生を基礎づける要件事実の存否を争うことができるものと解するのが相当である。蓋し、当事者の主張・立証する事実関係の下において、法令を解釈・適用して、その法律効果としての権利又は法律関係の存否・範囲を判断すべきことは裁判所の職責であり、右に述べたとおり、当該権利又は法律関係自体について相手方がそれを認める旨の陳述をした場合に、その主張・立証責任を負う者がその発生を基礎づける具体的事実の主張・立証の負担を免れ、裁判所もそれを前提として請求の成否を判断すべきなのは、当該権利又は法律関係の発生を基礎づける具体的事実が弁論に現われていないときに限られるのであって、そのような具体的事実が弁論に現われており、しかもそれについて当事者間に争いがある以上、裁判所が証拠に基づいて右事実の存否を認定し、それに従って当該権利又は法律関係の存否・範囲を判断すべきことは、むしろ当然のことであるからである。

したがって、本件においても、先に説示したような訴訟経過の下においては、本件土地が被控訴人の所有に属することを認めるとの陳述が事実に反しかつ錯誤に基づくものであることを証明するのでなければ、控訴人はそれを撤回することが許されないものと解すべきではなく、控訴人において、先にした右陳述を撤回するとし、被控訴人による本件土地の所有権取得原因事実を争っているのである以上、本来の主張・立証責任の所在に従い、被控訴人は、本件土地の所有権取得原因である訴外一夫と同マツとの間及び右マツと被控訴人との間における本件土地の各売買契約の締結の事実について立証責任を負うものと言わなければならない。

二  そこで、被控訴人による本件土地の所有権取得原因の存否について検討するに、本件土地はもと訴外一夫が所有していたものであること及び本件土地について被控訴人主張のような各所有権移転登記がされていることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、訴外一夫は、昭和二八年四月五日、その後妻ウメの妹で当時同居していた訴外マツとの間において、本件土地を代金一一万二、三七五円で訴外マツに売渡す契約を締結したこと、さらに、訴外マツは、昭和三八年六月二三日、被控訴人との間において、本件土地を代金一七九万円で被控訴人に売渡す契約を締結したことの各事実を認めることができる。

もっとも、後にみるとおり、《証拠省略》中には、訴外一夫は、先妻丙川タケとの間の子訴外丙川一郎との折り合いが悪かったところから、同人が訴外一夫の財産を勝手に処分してしまうことを恐れて、訴外マツと通謀した上、本件土地を訴外マツに売渡したように仮装したにすぎず、真実訴外一夫と訴外マツとの間に本件土地の売買契約が締結されたことはないとする証言、供述又は記載部分があり、また、後掲甲第二一号証の四及び六、乙第二号証には右供述に符合する記載があるけれども、これら証拠を採用することのできないことは、後に控訴人の抗弁に対する判断として説示するとおりであり、他には右認定を左右するに足りる証拠はない。

第二控訴人の抗弁について

一  そこで、控訴人の抗弁について判断すると、《証拠省略》中には、訴外一夫は、先妻丙川タケとの間の子訴外丙川一郎との折り合いが悪く、同人が訴外一夫の財産を勝手に処分してしまうことを恐れて、後妻ウメの妹である訴外マツと通謀した上、本件土地を訴外マツが訴外一夫から買受けた旨の記載のある売買契約書を作成するなどして、売買契約を仮装して所有権移転登記をしたものである旨の証言又は供述部分があり、また、控訴人は、原審及び当審における本人尋問において、本件土地は、右のとおり登記簿上は訴外マツの所有名義とされていたものの、依然として訴外一夫が所有していたものであるところ、控訴人は、昭和三八年二月頃、訴外一夫から本件土地を代金一八〇万円で買受ける契約をし、その代金の内金五〇万円については当時控訴人が訴外一夫に対して有していた貸金債権と相殺し、残金一三〇万円については、昭和三八年三月二九日に訴外一夫が死亡した後、同人の三度目の妻訴外丙川ナツに支払ったと供述し、甲第二一号証の四及び六、乙第二号証ないし第四号証の記載は、全面的又は部分的に右証言又は供述に符合する。

二  しかしながら、右各証拠は、次に述べるような種々の疑問点を含み、結局、全体として措信することができないものと言わざるを得ず、他には控訴人主張の抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。

1  《証拠省略》によれば、乙第二号証(本件土地の登記簿上の所有名義を訴外マツとしたのは、それを訴外丙川一郎に遣りたくないために仮装したものに過ぎず、真実は訴外一夫の所有に属する旨の記載のある昭和三二年一二月一三日付の訴外一夫作成名義の念書で、併せて控訴人、訴外マツ及び訴外丙川タケの署名と押印のあるもの。)中の訴外一夫及び訴外マツの各署名部分の真否については、筆跡鑑定者の間においても意見を異にすることが認められ、また、原審における証人丁原マツは、右書面が全く自己の関知しないものであると証言するなど、その一部の成立の真否には疑問がある。

そして、右の点は措くとしても、先に判示したとおり、本件土地について訴外マツのために所有権移転登記がされたのは昭和三三年二月一三日であって、右書面作成の日付である昭和三二年一二月一三日には未だ右登記はされていなかったのに、右書面には既に訴外マツのために登記をした旨の客観的事実に明らかに反する記載がされており、また、その趣旨及び形式上も不自然な点があって、物事の通常の過程で作成された書面とは到底認め難い。

2  《証拠省略》によれば、訴外一夫の相続人である訴外丙川ナツ、同丙川一郎外四名は、訴外一夫が昭和三八年三月二九日に死亡するや、直ちに訴外マツ、被控訴人外一名を被告として本件土地について訴外マツ及び被控訴人のためにされた前記各所有権移転登記の抹消登記手続等を求める訴えを提起したこと、そこでの主たる争点は、本件におけると同様、訴外一夫と訴外マツとの間における本件土地の売買契約の存否若しくは右売買契約が通謀虚偽表示によるものであって無効であるか否かにあったが、右売買契約はなされておらず若しくは通謀虚偽表示によるものであって無効であるとする訴外丙川ナツ、同丙川一郎らの主張は容れられずに、同人らは、第一、二審とも敗訴判決を受け、これに対して上告の申立をしたが、昭和五四年九月一一日に上告棄却の判決を受けたこと、この間、右訴訟においては右乙第二号証は提出されず、その作成に関与したことになっている控訴人も、右訴訟において訴外丙川ナツ、同丙川一郎らのために再三にわたって証人として証言したが、その際、右乙第二号証の存在することについてなんら言及することはなかったし、本件土地は控訴人が昭和三八年二月頃に訴外一夫から買受けたものであるという本訴における控訴人の主張にそうような証言は一切していないことの各事実を認めることができる。

したがって、控訴人は、本訴において始めて右乙第二号証のほか乙第三号証(訴外一夫が控訴人に差し入れた昭和三八年一月一五日付借用書)及び第四号証(訴外丙川マツが控訴人に差し入れた昭和三八年四月五日付の本件土地代金の領収書)を提出し、本件土地は自己が訴外一夫から買受けたものであると主張するに至ったのであるところ、このような不自然な経緯をとらざるを得なかったことについての原審及び当審における控訴人の供述には、全く首肯し得べきものがない。また、右乙第三号証は、その趣旨、形式ともやや異例に属し、殊更に作成されたものであるとの感を免れないし、同号証中訴外マツの作成名義部分については、原審における証人丁原マツが自己の関知したものではないと証言するところであって、その成立を認めるに足りる証拠はない。

3  《証拠省略》を総合すると、訴外一夫は、昭和三四、三五年頃まで後妻の訴外丙川ウメ及びその妹の訴外マツと同居していが、その頃訴外丙川ウメが死亡したのに伴ない、訴外マツも訴外一夫方を出たこと、訴外一夫は、昭和三五年四月頃に訴外丙川ナツと三度目の婚姻をしたが、昭和三七年一〇月頃癌を患って入院し、そのまま昭和三八年三月二九日に死亡するに至ったこと、控訴人と訴外丙川ナツは、訴外一夫の死期に近いことを知るや、しばしば訴外一夫を病院に尋ね、訴外マツから本件土地を取り戻すべく、訴外一夫に種々の働きかけをしたことの各事実を認めることができる。

そして、右のような事実と前記乙第二号証及び第三号証についての先にみた疑問点並びに前記のような訴訟経過を併せ勘案すると、右各書証のほか、前掲甲第二一号証の四及び六(本件土地を訴外マツの名義にした経緯についての控訴人の主張にそう事情を記した訴外一夫の昭和三三年二月付及び昭和三七年九月付訴外戊田秋夫宛の各書簡)は、いずれも控訴人と訴外丙川マツとが右のような背景の下において訴外一夫に働きかけ、画策をして作成させたものではないかとの疑いを拭い去ることはできず、そうとすれば、仮にそれらが訴外一夫の意思に基づくものであるとしても、その真実性にはなお疑問を持たざるを得ず、ひいては《証拠省略》中の前記各証言、供述又は記載部分も、直ちには措信しえない。

三  したがって、控訴人の抗弁は、その余の事実関係の存否について判断するまでもなく、すべて失当であって、本件土地は、昭和三八年六月二三日以降被控訴人の所有に属するものであり、控訴人は、本件土地を使用収益すべきなんらの権限も有しないものと解するほかない。

第三控訴人による本件土地の占有等

一  控訴人が昭和五四年一月に本件土地上に本件工作物を建築して所有し、爾来本件土地を駐車場として使用してこれを占有していることは、当事者間に争いがない。

そうすると、控訴人は、被控訴人に対して、本件工作物の収去、本件土地の明渡し及び控訴人が本件土地の占有を開始した後の昭和五四年二月一日から本件土地明渡し済みに至るまでの間の本件土地の賃料相当額の損害金の支払いの各義務を負うところである。

そこで、本件土地の賃料相当額の如何についてみると、《証拠省略》によれば、控訴人は、本件土地を駐車場として使用し、常時約一〇台の自動車を駐車させて、一か月一台当たり、五、〇〇〇円ないし一万五、〇〇〇円の駐車料を得ていることが認められるが、右の金額は、本件土地に帰属する収益性のほか、控訴人の労力及び投下資本の利潤性を反映したものであることが明らかであって、そのままこれを本件土地の賃料相当額とすることのできないことは言うまでもない。そして、他にはその算定に資する的確な証拠はないので、本件記録中の本件土地の土地課税台帳登録事項証明書によって知りうる本件土地の固定資産評価額五九四万四、九三七円に期待利回り年六分を乗じたものの一二分の一の二万九、七二五円をもって月額賃料相当額と解するのが相当である。

二  次に、被控訴人がその主張のとおり弁護士山口達視に委任して本件土地の占有移転禁止の仮処分申請及び本訴の提起をしたことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、被控訴人は、昭和五四年二月二五日、右両事件の処理のため右弁護士に対して着手金として五〇万円を支払ったほか、成功報酬として一〇〇万円を支払うことを約したことを認めることができる。

そして、本件事案の内容と性質、本件訴訟の経緯、当事者双方の攻撃防禦の状況その他の事情に鑑みると、被控訴人が支払いを余儀なくされる右一五〇万円の内五〇万円を控訴人の本件不法行為と相当因果関係のある損害として、控訴人に賠償させることとするのが相当である。

第四結論

以上のとおり、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対して本件工作物の収去、本件土地の明渡し並びに控訴人が本件土地の占有を開始した後の昭和五四年二月一日から本件土地明渡し済みに至るまでの間の一か月二万九、七二五円の割合による本件土地の賃料相当額の損害金及び弁護士費用中五〇万円の各支払いを求める限度において理由があるものとして認容すべく、その余の請求は失当として棄却すべきであるから、被控訴人の請求を全部認容した原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九六条、第九二条及び第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 越山安久 村上敬一)

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